保管するアイヌ民族の遺骨返還における北海道博物館の方針に再考を求めます(声明)

北海道知事 鈴木直道 様

北海道博物館館長 石森秀三 様

環境生活部長 加納孝之 様 

アイヌ政策検討市民会議 

代表 ジェフ・ゲーマン

             

 わたしたちアイヌ政策検討市民会議は、日本の先住民族であるアイヌ民族に対する諸政策の課題・問題点を広く社会に訴え、共有していこうと、アイヌ民族と市民が組織した団体です。アイヌ政策を、国や北海道主導のものから当事者アイヌの自決権に基づくものへと転換することを大きな目的に掲げて活動しています。このたび、北海道博物館が保管するアイヌ民族の遺骨を、受け入れ先が現れない場合に国立アイヌ民族博物館(ウポポイ)へと集約する方針を示したことに懸念を覚え、再考を求めます。

 わたしたちの会員にはアイヌ民族のエカシ(長老)、フチ(媼)もおり、自分たちの祖先の遺骨が研究者などに無断で掘り出され、持ち去られて研究材料にされてきたことへの強い憤りと、それぞれの故郷の土に返してあげたいという切なる思いを、当事者の声としてうかがってきました。そもそも、アイヌ民族のものだから、という理由で遺骨を「収集」する行為自体が、植民地主義や人種主義に根ざした人権侵害なのです。ですから、大学や博物館に今なお保管されている遺骨にとどまらず、ウポポイの慰霊施設に移管された遺骨に対しても、「収集」・保管に至った経緯を明らかにし、郷里に返還することが大前提と考えています。「収集」の経緯を調べていく中で、遺骨の親族全員の合意抜きに無断、違法に持ち去ったことが判明した場合には当然ながら、まず謝罪すべきです。

 このたび、北海道博物館は、「北海道博物館の保管する遺骨等の取扱方針(案)」として、遺骨にかかわる情報を一般に公開し、返還の申し出がなかった場合にはウポポイに移管する方針を掲げ、パブリックコメントを募集しております。しかしながら、現在保管されている遺骨が、どのような経歴・由来があり、どのような経緯で保管に至ったかの調査・報告は、私たちが知る限り、行われた形跡がありません。まずは、なぜ、どのようにして北海道博物館がアイヌ民族の遺骨を保管するに至ったのか、その調査を徹底して行い、プライバシーの侵害や差別の助長につながらない配慮をしつつ、少なくともアイヌ民族関係団体や、収集された地域の関係者へは示すべきです。そこに不適切な手続きがなかったか、「収集」された先の子孫の方々はどのような思いでいるのか—も見極めるべきです。それ抜きに、「収集」された地域の関係者が返還にただただ応じるかどうかを尋ねても、当事者たちに容易に判断がつかないのは当然です。さらには、そのような一方的な手続きをかざし、返還を求める動きが出てこないことをもって、そのままウポポイに移管するというのも極めて乱暴な話です。

 そもそも、遺骨を集め、保管した側が、その行為によって精神的な苦痛、民族の尊厳への打撃を受けた側に、自ら取り戻すための手続きを強いること自体が、現代の国際社会における先住民族政策の流れに反して、人道的な配慮を欠いていると見なさざるを得ません。例えば米国では、連邦政府が1990年に「アメリカ先住民墳墓保護返還法」を制定し、多額の予算を投じて、先住民族への遺骨返還を進めています。大学や博物館などには、保管する遺骨がどの部族に帰属するのかを特定し、返還を前提とした協議をその部族と行うことが求められています。部族の側に第一義的な対応を求めるのではなく、大学や博物館の側が主体となって合意形成を進め、最終的には返還を実現することが、法律の前提となっています。

 また、方針(案)には、「複数の団体から申請があった場合、申請者間での協議を求め、その結果を勘案して、地域返還対象団体として適切な者であるか確認する」とありますが、協議を地域に丸投げすることは、当該地域内の分断を招く可能性があり、あまりにも無責任な態度と言わざるを得ません。国のガイドラインにのっとっていると言うかもしれませんが、わたしたちはこの点において、国のガイドラインにも不備があると考えています。

 地域での受け入れが果たされず、ウポポイに移管されることになったあかつきには、経緯の究明、最終的な返還に向けての責任の所在が、北海道にあるのか国にあるのか不明瞭になり、半永久的に施設に安置され、再び研究材料とされる可能性もあることにも、わたしたち会員の間に強い危惧があります。

 貴博物館の職員のお一人は「博物館で働く立場として、展示の一つひとつが、『アイヌ民族には出会わなかった』という認識を強めるものになってしまってはいないか、丁寧に立ち止まって考えていきたいと考えています。それが、北海道『開発』が進められる中で今日まで連綿と続いてきたアイヌ民族の歩みをたどることになり、自らがアイヌ民族の歴史に連なることを意識し、時には自身をアイヌ民族であると認識する人々がこの社会の中を共に生きているという事実を受け止める力を養うことに繋がっていくでしょう」と『開発こうほう』誌(2021年8月)に書いておられます。貴博物館が収蔵してきた遺骨を返還する前に、丁寧に立ち止まり、遺骨と向き合い、アイヌ民族との共生のあり方を誠実に考えて頂きたく存じます。

 

 以下、要点をあらためて申し上げます。

 

  1. ウポポイへの集約可能性を伴う返還手続きを行う前に、まずは保管に至った経緯を精査し、公けにすべきである

  2. 返還手続きの前に、遺骨がもたらされた地域のアイヌ民族団体やアイヌ民族の関係者と協議し、合意形成を図ること

  3. アイヌ民族の側に手続きを丸投げし、返還を望む場合は申し出させる方式ではなく、返還のための調査、調整、準備や資金面の手当を北海道博物館の側が尽くしたうえで、返還を博物館の側から申し出る形式にすべきこと

 

 以上の履行を求めます。

 

 

【連絡先】

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