2019年2月6日

 

日本政府「アイヌ新法(案)」に対する声明

 

紋別アイヌ協会 会長 畠山 敏

094-0015 北海道紋別市元紋別6-3

 

 このほど明らかになった日本政府提案の「(仮称)アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するための施策の推進に関する法律案」に対し、紋別アイヌ協会から意見を申し述べます。

 

当協会は20年以上前から、「アイヌ民族の伝統的生業、とりわけ地元のオホーツク海周辺で自由にサケ漁やクジラ猟ができるようにしてほしい」と国会議員や政府に対して働きかけてきました。また近年は、アイヌ民族のさまざまな先住権について、他の地域のアイヌ・グループ/個人と連携しながら、内閣府や国会議員らと交渉し、そのつど要望を伝えてきました。

 

 しかし、このたび北海道新聞(2018年12月31日版)が報じた政府の新法案は、これまで当協会が政府に伝えてきた要望・意見を全く無視しており、当協会が本来有しているはずの諸権利が、今後も変わらず日本国家によって制限され続けかねないことに、強い懸念と不信感を禁じ得ません。

 

 私たちの先祖は、オホーツク沿岸モベッ地方にコタン(主権集団)を形成し、伝統的な生業を営みながら生活していました。しかし17世紀以降、江戸幕府/松前藩の資本主義経済(場所請負制)のもと、刀を突きつけられるようにして、男子は奴隷労働を強いられ、女子は和人支配者の性奴隷とされるなど、すさまじい民族差別にさらされるようになりました。19世紀以降は、植民地で同化政策をとった明治政府が、法律をかざしてあらゆるコタンから自律的な自然資源管理の権利を奪い、都市開発を理由にアイヌを住み慣れた場所から排除するなど、私たちは生活圏を大幅に制限されて、現在に至っています。

 

 このたびの新法が本当に「アイヌの人々の誇りが尊重される社会を実現するため」の法律であるなら、まずは私たち紋別アイヌが受けてきた侮辱的で違法な侵略、生活や資源の一方的な収奪に対し、日本政府は謝罪すべきです。また、こうした歴史的不正義をつぐなうために、日本国会は各地アイヌ集団に対する賠償制度をこそ真っ先に定めるべきです。

 

 そのうえで、日本政府は、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(2007年9月13日採択)に従い、各地のアイヌ集団に対し、社会的・政治的・経済的・文化的・教育的な集団的事柄とのかかわりで自らのことを自らで決める自己決定の権利を保障すべきです。

 

 以上をふまえ、当協会は以下の具体的要件を満たす法律を望みます。また、これら要件についてオープンな形で各地アイヌの間で議論が尽くされるまで新しい法律の制定を延期するよう、強く求めます。

 

  1. 各地アイヌコタンの主権の承認およびそれに伴う権利の制度化
  2. 可能な限りの土地の返還
  3. 狩猟権や漁業権を含む資源権の返還および資源管理の権利の確立
  4. アイヌ民族に顕著な教育的・経済的格差を是正するための、全国レベルでの奨学金制度、年金制度

 

以上